令和5年度 埼玉県公立高校入試【総括】
国語 吉田 誠講師
文脈と全体像の両方をつかもう
国語の大問構成は昨年と同様であったが、論説文の点数配分に変更が見られ、記述問題の配点が高くなった。
大問1は小説の読解
音楽大学受験を志していた「私(陽菜)」が将来について思い悩む様子を読み取る。
問1は、傍線①「動悸が、高鳴る」について「私」の心情を選ぶ問題。「ぶれない意思」を持った「玲」の演奏を聞いて、「私」におきた反応を選ぶ。
問2は、傍線②について「私」が気づいたことを記述する問題。傍線前に「玲ちゃんがいるからだ」とあるので、「玲」の描写を要因として書き出し、その後、「細田さん」に生じた結果を押さえてまとめればよい。
問3は、傍線③について「私」が隠した「内心」を選ぶ問題。「玲」の「どこを受験するんですか?」という質問に対する「やっぱり、藝大かな」という「私」の回答が、「内心」どおりではないことから選ぶ。
問4は、傍線④について「私」の唇が震えた理由を記述する問題。空欄前に「玲ちゃんの演奏を聞いて」とあるので、それに続く状況を「コンクール」、「個性」という指定語句を使用して理由を書く。
問5は、本文について「適切でないもの」を「二つ」選ぶ問題。各選択肢で述べられている表現技法や視点、心情描写を、本文の形式や内容と慎重に照らし合わせながら選ぶようにしたい。
大問2は識事項や言語能力を問う問題
漢字の読み書き、主語・述語、俳句の季語、インタビューの様子とメモを読み取り答える問題などが出題された。「散策」という熟語の意味を知っているかを問うたり、情報を引き出すための質問文を考えさせたりするなど、語彙力や対話力が試される問題があった。
大問3は論説文
「普遍者」と「個物」の分類や、「存在論」についての、哲学的な内容であった。
問1は、傍線①について「個別者」が「一つしかない」ことの説明を選ぶ問題。傍線直後に具体例として「私が持っている白い消しゴム」、「ホワイトハウス」、「通った教室」が「一つしかない」とあることから選ぶ。
問2は、傍線②について「『白い』という性質が存在すると言えるかどうか」が「難しい」理由を選ぶ問題。直後に「『白い』という性質そのものを見たことがある人など一人もいない」とあることから選択する。
問3は、傍線③「この問題」について記述する問題。指示語や指定語句を頼りに前から探し、「『白い』という性質が存在しないとしたら」、「事実が、説明不可能になってしまわないだろうか」という問題点を押さえる。
問4は、傍線④の理由を選ぶ問題。段落初めの「重要なのは」、傍線前の「つまり」などの要点を述べた部分や、傍線後の「他のものと区別されることで、そのものは存在している」などの説明をもとに選ぶ。
問5は、「ものの存在の仕方」について記述する問題。空欄Ⅰの前後が「個物は」、「ことで存在する」、空欄Ⅱの前後が「普遍者は」、「ことで存在する」となっているので、それぞれの存在の仕方を押さえて書く。
大問4は古文の読解
主語、歴史的仮名遣い、内容理解などについて問われた。口語訳、注を参考にしながら内容を理解していくとよい。問いで意味が説明される場合もあるので、問題もしっかりと読みたい。
大問5は作文
「インターネットの適切な利用」について、資料をもとに、自分の考えや体験を書くものであった。「注意」を確認して、条件を守って書くことが重要である。
国語の文章問題においては、小説では心情や場面の変化、論説文では、話題や筆者の主張などの全体像をつかむことが大切である。また、問題を解く際は傍線や空欄前後の文脈も押さえ、全体と細部の両面に注目して読解するよう心がけたい。
数学(学力検査問題) 八木 玲講師
基礎力の定着が高得点へのカギ!
大問数に変化はなく、昨年よりやや解きやすい問題が多かった。
【大問1】計算問題・小問 16問(65点)
配点は65点と昨年同様に高く、素早くかつ正確に処理し確実に得点したい。
(12)は補助線を引き、相似な三角形を作りそこから線分の長さを求める。(14)は切り口の円の半径を三平方の定理を用いて求めるが、問題用紙の図を利用して考えると分かりやすい。(16)は昨年から追加された新学習指導要領から「箱ひげ図」が出題された。直前のA君のセリフがヒントになっており、これに気付けば解答の糸口がつかめる。出題範囲は幅広いが基本的な問題の集合のため取り組みやすかった。
【大問2】作図・式による説明 2問(11点)
(1)の作図は理科の「天体」を題材にした問題。60°→正三角形という発想が浮かぶかどうかがポイント。
(2)は中2分野の「式による説明」。教科書の例題などでもよく見かける問題で、解いたことがある人も多かったはずで、確実に得点したい。
【大問3】循環小数 2問(8点)
昨年に引き続き、会話文の問題。(1)のアは与えられた表を見れば簡単に見つけられる。イにあてはまる数はAさんのセリフの直後のBさんのセリフから21以上31以下の数であることが分かる。(2)は1,4,2,8,5,7の6つの数字が繰り返されるということに気が付けば求められる。
【大問4】空間図形 3問(16点)
空間図形、なお且つ点が動くという設定で難しく感じた受験生も多いと思われる。
(1)は立体の表面上の最短距離を求める問題で展開図を描いて求める。典型的な問題なので得点したい。
(2)の証明問題は三角形の合同証明から二等辺三角形であることを導くが、証明問題としては基本的な問題で、しっかり問題練習を積んできた人にとっては取り組みやすかった。
(3)直方体を切断した後の立体のイメージを掴むことができれば表面積を求めること自体は難しくない。
基本的な問題が多く出題されており大問1でどれだけ正答できるかが高得点へのカギとなる。各中学校の定期試験の勉強はもちろん、数学検定などで様々な問題に取り組み、中学3年間を通して日々の学習で基礎力を高めていくことが、入試での高得点につながると言える。
数学(学校選択問題) 八木 玲講師
「時間配分」に注意!
学力検査問題同様、大問数に変化はなく、昨年よりやや解きやすい問題が多かった。
【大問1】計算問題・小問 10問(44点)
計算問題・小問集合で幅広い分野から出題されている。(6)(9)(10)は学力検査問題と題材は同じであるが問題の設定が違っているため難度が上がっている。(7)は組み立てた立体をイメージできれば頂点と辺の数は容易に求められる。(10)は昨年に引き続き「箱ひげ図」の問題で、資料を読み取った上で説明しなければならず、どう書いたらよいか迷った受験生もいたと思われる。
【大問2】作図・証明 2問(13点)
(1)は作図の問題。題材は学力検査問題と同じであるが条件を変えて難度を上げている。
(2)は三角形の合同証明であるが、まず四角形が平行四辺形であることを証明しなければならず証明の道筋を立てるのに苦労したのではないか。
【大問3】循環小数 2問(9点)
学力検査問題と同じ題材。
(1)は学力検査問題共通問題。
(2)は学力検査問題と同様に、1,4,2,8,5,7の6つの数字が繰り返されるということに気が付けば求められる。
【大問4】関数 3問(17点)
(1)は昨年も出題されたグラフから文字の大小関係を答える問題で平易。
(2)①は台形の面積の変化を説明する問題であり、自分の言葉で説明できるかが問われた。
②は回転体の体積を求める問題でa,b,cの値が分数になり計算がやや複雑になるため正確な計算力が必要。
【大問5】空間図形 3問(17点)
(1)は学力検査問題共通問題。
(2)は直方体を切断したときの体積の説明を書いて求める問題であった。切断された立体をイメージし、体積が等しい2つの三角錐が見つけられれば解法の糸口が見つかる。(3)は難度が高い。立体の断面から平面を抜き出し、円の性質や相似を利用し求めるが、複数の単元の知識を駆使することが要求されており苦戦した受験生が多かったと思われる。
昨年と比べると比較的解きやすい問題が多かった。ただ、複数の単元の知識を必要とする問題が散りばめられているので柔軟な発想力と直感力が必要である。時間配分に注意して、「できる問題」をミスなく確実に正答することが高得点へのカギとなる。日頃の学校や塾の授業を大切にし、数多くの問題を解き、経験値を積むことが大切である。
社会 山田 竹志講師
教科書・資料集の精読が高得点のカギ
出題範囲
範囲の変更はなく例年と同じ形式で実施された。
三分野の配点は地理30点、歴史33点、公民23点、三分野総合14点であった。
地理分野の配点が1点上がり、三分野総合が1点下がった。基礎力を重視した問題であったと思われる。
出題形式
世界地理
例年と大きな変更はなかった。昨年と比較すると雨温図の問題が復活し、ロンドン・青森・ニューヨークの三都市から、ロンドンの気候が緯度の割に温かい理由を問う問題や、地域の特色ある写真から地図上の場所を選ばせる問題などが出題された。写真や雨温図などを使う問題は令和6年度入試でも出題される可能性が高いので教科書と資料集の写真をよく確認しておくことが必要。
日本地理
例年と大きな変更はなかった。問1の中部地方の断面図は、ここ数年出題されていない形式だが、教科書や資料集ではよく見かける図なので落ち着いて考えれば問題ないと思われる。
地形図は、変更があり少し戸惑った受験生も多かったかもしれない。例年では、「全てあっているものを選びなさい」の形式だが、本年度は佐久島の写真と地形図よりどの方向から撮影したかを問う問題だった。地形やランドマークをたよりに鳥瞰図(ちょうかんず:鳥が空から下の景色を眺めるような感じ)をイメージすればわかりやすい。
歴史
例年と大きな変更点はなかった。大問3は、カードを用いた各時代を網羅する形式、大問4は明治時代以降の歴史は年表を使って問う形式であった。特に大問4は教科書や資料集をどれだけ読み込んでいるかがカギ。大問4問3の問題は、例年なら大正時代の大戦景気を問うパターンが多いが、今年度はその後の「国際協調」、「軍縮」を資料、グラフから読み取り記述させる良問であった。また、問4、5とも戦後の日本からの出題で、来年度以降は平成時代になってからの様子も出題される可能性が高い。教科書を最後まで精読することをすすめる。
公民
昨年のような変化はなく例年の出題形式に戻った。内訳では、政治分野より経済分野の方が1問多かった。特に問4の為替相場の問題は、教科書をしっかり読んでいる受験生には、馴染み深い問題であった。入試問題では「スニーカー」だが教科書では「自動車」で説明されているものであった。
三分野総合
SDGsから4種の目標が出題、現在の社会状況を反映した問題であった。
資料・グラフをただ与えるのではなく、問4は「問題文を読み➝何を問われたのか➝そのために必要なグラフの選択➝そこからわかる成果を記述させる」暗記だけでは解けない問題。今後は基本的な知識に加え、現在の社会問題にどれだけ関心があるかを問われる可能性が高い。
展望
「教科書・資料集」の精読が不可欠。まず、どれだけしっかり教科書を読み込むか。詳細な統計やグラフ(数値など)は資料集を使い確認する。この土台作りが高得点への近道。また戦後の歴史やSDGsの内容などは、これからも出題される可能性が高いので日頃から意識して学習することが大切である。
理科 上原 健太講師
1ページあたり1から2問。情報を読み解く力が問われる問題
大問1
例年通りの一問一答形式で、中学3年間で学習した各単元から8問出題されている。昨年同様8問中7問に図や表があるため、問題を読む前に内容をある程度推測することができる。教科書改訂に伴う出題として、問3では新たに追加された「イオンへのなりやすさ」が、問8では中3に加えて中2でも学習することになった「放射線に関する問題」が出題された。
大問2
【天気とその変化】「風」をテーマに、「日本の四季」「海陸風」「季節風」「偏西風」についての問題が出題された。問5では、羽田空港から福岡空港に向かう飛行機の所要時間が、行きと帰りとで異なることについて、3つの表の情報から解答する問題であった。表1から「帰り」(東から西)の方が、「行き」(西から東)よりも所要時間が短いことが分かる。表2では飛行機の飛ぶ高度が偏西風の高度とほぼ同じであることが分かる。表3では、飛行機が飛ぶ緯度と偏西風が吹く緯度がほぼ同じであることが分かる。これら3つの情報から「帰り」(東から西)の所要時間の方が短くなる理由を答える問題であった。
大問3
【遺伝の規則性と遺伝子】エンドウを用いた植物の分類および遺伝に関する融合問題であった。問2は問題文と図2を読み解くことで、開花後も花弁に包まれていることがわかる。問4は定期テストでも出題されるような問題であり、準備をしていれば比較的容易に解くことができた。
大問4
【還元】クジャク石という、銅が主成分の化合物を含んだ鉱石から銅を取り出す問題であった。最初にクジャク石を熱分解し、次に炭素を加えて還元することで、より不純物の割合の低い銅が得るという実験だった。問4では、実験2の結果から「過不足なく反応する数量関係」をみつけて解く問題が出題された。例年にくらべて解きやすい問題で、しっかりと読み解くことで対応できた受験生も多かったと思われる。
大問5
【光の性質】光の反射(問1、2)、凸レンズ(問3、4)、光の屈折(問5)と、光の性質について出題された。
問2は電球の光が鏡で反射する様子を作図する問題が、問3では、「焦点距離が10cmの凸レンズ」という情報と、「凸レンズからスクリーンまでの距離が20cm」つまり「焦点距離の2倍の位置」という情報から、「光源の大きさ=像の大きさ」という結果にたどり着けるかを問う問題であった。「焦点距離の2倍の位置」に関する情報はしっかりとおさえておきたい。問5は灯台で用いられるフルネルレンズの仕組みについての問題であった。
出題形式は例年通り
大問2~5は、12ページから19問(1ページあたり1から2問)が出題された。1ページあたりの図や表、会話文などの情報が多いが、「授業場面」や「ノートの内容」「レポート」で区切られており、比較的情報を整理しやすい構成となっていた。また、理由や仕組みなどを記述する問題が出題されており、図や表から必要な情報を読み取り、それらを「文章にして」「わかりやすく説明できる」力が必要である。
大問1の小問8つと大問2~5の単元を合わせると、中学3年間で学習したほぼすべての単元が出題されている。各分野、単元に偏りを作らないよう、幅広く学習することが重要である。
英語(学校選択問題) 横江 郁哉講師
高い英文読解力と問題処理能力が必要
出題形式や問題数は昨年度と同様。大問3は英文が長くなり、設問の難度も例年通り高いが、全体として「現在完了進行形」「仮定法過去」などの「新学習指導要領」の改訂により加わった文法単元からの出題自体はなく、関係代名詞、不定詞など高校入試頻出の文法単元を中心とした出題だった。英文を速く正確に読み、素早く正解を導き出す情報処理能力が求められている。
大問1のリスニング問題に例年と大きな変化はない。例年通りすべての音声が英語による指示。全体的に解答しやすい問題が多い中、No.6の(3)では選択肢の長い英文を制限時間内で読解する力が必要。No.7の(1)では“Who is this man?” と読まれている英文を間接疑問文へ書き換えさせる設問は特に難度が高い。
大問2は昨年同様に【学力検査問題の大問4】と同じ内容の会話文。4つの短い文章に続くそれぞれの設問に答える形式は例年通りの出題だった。文章自体は「遠足のチェックポイントをどこにするかを話し合う」という内容で読みやすかったが、設問に関連するfield tripやrecommendに注釈が付かず語彙力が必要となる。加えて設問では、助動詞、接続詞、不定詞、現在完了、関係代名詞など中学校3年間で履修する幅広い文法が出題され総合的な英語力が求められた。
大問3は高校1年生のMayumiが「傘」について書いた英文。問1では例年、英語の質問に英語で答える解答しやすい問題が出題されていたが、本文の記載とは異なる形式で解答しなければならなかったため戸惑った受験生も多いのではないか。さらに問5の整序問題は、間接疑問文の中の前置詞likeの位置を問う出題。問6は例年通りの2語を補充して要約文を完成させる問題で、本文に出てくる語句や表現を空欄に当てはめるためには、正しい英文法と文章構造の知識が求められる。昨年同様内容は読みやすいが、制限時間内に約750語で構成された長い英文を読み、設問の正解を導き出すのは非常に難度が高い。この大問3の攻略が高得点のカギといえる。
大問4の英作文は、「海か山どちらの近くに住みたいか」というテーマ。ここ数年、社会問題、環境問題がテーマとなっていたが、今年度は身近で書きやすい題材だったため、スペルや文法ミスをせずに英文を完成させることがポイントとなる。
英語(学力検査問題) 横江 郁哉講師
総合的な文法知識と英文の読解力がポイント
問題量や難度は昨年とほぼ同様。各大問すべてに基本的な英単語を記述する設問があり、正しく単語を書く力が求められている。また、「新学習指導要領」の改訂により新たに加わった「仮定法過去」からの出題をはじめ、関係代名詞や不定詞など中学で学習する文法単元が幅広く出題されていた。
大問1のリスニング問題に例年と大きな変化はない。28点を占めるリスニング問題で確実に得点することが高得点につながる。
大問2は身の回りの語彙を試す空欄補充問題4問に加え、昨年まで大問4で出題されていた条件英作文と同形式の問題が追加された。また、例年通りMayなどの基本的な単語を書く問題だけでなく、I’m sure thatの構文や相手を勧誘するときに使用する助動詞などが出題された。問3の条件英作文も基本的な助動詞を使用して英文を書く必要があり、普段から「文章」で英語を書く練習をしているかが明暗を分けた。
大問3は例年通り短めの文章題。問3では「仮定法過去」が出題されているが、選択問題なので文法知識があれば十分解答できる。大問3は全体的に解答しやすい問題が多いので、ここでミスせず正解できるかどうかが高得点のカギなる。
大問4は昨年同様に【学校選択問題の大問2】と同じ内容の会話文。4つの短い文章のあとに設問という形式も同じ。本文は「遠足のチェックポイントをどこにするかを話し合う」という内容で読みやすかった。問7は例年通り「疑問詞」を使った疑問文を作る問題で、合わせてask ~ to …を用いた不定詞が出題された。特に難度の高い設問があるわけではないが、不定詞、接続詞、関係代名詞などの文法知識やtakeを用いた語彙表現など幅広く出題された。英文読解力だけでなく、正しい文法理解、語彙力といった総合的な英語力が求められた。
大問5は短い英文を読み2つの設問に答え、さらに英作文をする形式。「本と英語のどちらで物語を楽しむのが好きか」というテーマで、英検3級や準2級でライティングの練習を経験している生徒にとっては書きやすい内容だった。
入試問題の分析 アーカイヴ
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